鷲見雄一(2012.1.29)
「人間」と呼ばれる動物の身勝手さ
1981年に小学館が発行した「動物の図鑑」によると、この地球上には約103万5950種
類もの動物が生存しているそうだ。哺乳類だけでも4500種、爬虫類は5000種、魚類が1万
8000種、無脊椎動物の中の節足動物ともなると80万種、軟体動物が11万種、原生動物が
3万種といった有り様だ。ところで、こんなに多くの動物の中で、最もズル賢く、欲深く、
動物の風上にも置けない動物は何だろう ? それこそが実は『人間』である。
ワニにしろヘビにしろライオンにしろ、狩りをするのは自分の命を守るためでしかない。
ところが、人間ともなると、毛皮のコートやバッグ、さらには絨毯や壁掛けのために他の動
物の命を奪うことを繰り返してきた。象牙で作られたマージャン牌を手にしたこともある。
つまるところ、人間という動物の狩りには常に金儲けの匂いがプンプンとしており、「生きる
ために食べる」という最も基本的な正当性が感じられないのである。
かなり前のことだが、英国人からスッポン料理を好む日本人が野蛮人と非難されたことが
あった。来日して、伊勢エビやタイの活き作り料理を目にした外国人の多くが眉をひそめる
と聞いたことがある。最近では日本の研究捕鯨船がオーストラリアのクジラ愛護団体から執
拗なイヤガラセをされた。しかし、そんな優しさを誇示しようとする彼らも、本当に動物を
愛していると言えるのかどうかは判然としない。遊びでウサギ狩りをしたり、牛やダチョウ
を食べるために飼育し、後々、その肉を安く他国に売ったりしているからだ。
最近のCMにこんなものがある。草を食む茶色の3頭の牛が現れる。ここに有名な女優が
現れ、「青い空、空気が美味しいわ。あっ、子牛が跳ねてる。脂肪が少ないこれからのお肉
です」と言う。それから飼育企業と商品名が大写しになるのだか、その一瞬、筆者は何とも
言えない気味の悪さを感じてしまった。動いている牛はコンピュータグラフィックスによっ
て作られたものかもしれないが、牛を前面に出して「脂肪分の少ないこれからのお肉です」
というのが、いかにも残虐に聞こえたのだ。それでいて、田畑を荒らす野生の猪や熊が殺傷
されることには何らの同情の気持ちも持てない。われながら実に身勝手ではある。
えてして自分の置かれた立場や利害得失によって、思想はもちろん道徳倫理までも押し曲
げてしまいかねない人間の身勝手さは、昨今ますます強まる一方に思えてならない。