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テレビと料理の話
今年は「地デジ」元年となった。しかし放送内容はこれまで見たところアナログ時代と
少しも変わらない。あいも変わらずタレントとかいう種族がバカ騒ぎするクイズ番組や食
べ物番組が全盛だ。むしろその傾向がますます激しくなっているように見える。
それにしても「地デジ」は気色の悪い略語だ。だいだい略語は下品な代物だが、パソコ
ン(も略語だが)で「地デジ」は出てこない。我が愛すべきパソコンにちょっと知恵を付
けたら、「ちでじ」と入力するとたちまち「血で痔」とか「地出痔」と変換するようにな
った。悪いことを教えてごめんねとパソコンに謝っても後の祭りである。
地出痔からいきなり料理の話で恐縮だが、その家で、ゴミを出すのは亭主の仕事である。
その亭主がぼやいた。「ゴミ捨て場に出すウチのゴミはいつもプラスチックトレイばかり
で恥ずかしい」。これに応えて女房が言った。「馬鹿ネー。透明なゴミ袋を使うからよ。
中の見えない不透明な袋を使えばいいじゃない」。実はこれは亭主がぼやいた話ではない。
これを得々として、亭主の知らない酒の席で披露したのは当の女房である。
この話の可笑しさもひょっとして通じない時代になっているかも知れないので蛇足の説
明をしておくが、女房の手料理にありつけず、いつもトレイ入りの弁当や料理ばかり食っ
ている(食わされている)亭主がご近所の手前恥ずかしいと嘆いた訳だが、ひょっとして
この嘆きがまるで女房には通じていなかったのかもしれない。ヤレヤレ。
30年ほど昔の話だが、当時の鳥羽水族館館長の佐々木さん(だったと思う)の著書に、
近頃は包丁のない家庭が増えている。あるのはハサミ。これでビニール袋を切って出来合
いの料理を皿に出す。これが本当のお袋さん、という話があった。そのあたりが手抜き奥
様のはしりであり、単なる笑い話ではなかったようだ。
近頃のテレビ番組を見ていると、食べ物番組の多いことに驚く。NHKまで朝から料理番
組を始める。それを食べるお客様タレントが、一様に口にするセリフが「ウーンうまい」
か、せいぜい「ウーンおいしい」である。「ウーン」も「うまい」も品のない表現で「お
いしい」でかたずけるのも能のない感想だが、男も女も一様にこの言葉を吐く。味を表現
する語彙を持たないのである。
道元禅師による料理の教え「典座教訓」は、「辛、酸、甘、苦、塩」の五味があり、こ
れに素材の持つ素朴な風味「淡」を加えて料理の味を「六味」と教える。「淡」はレベル
が高いが後の「五味」はいちおう誰でも知っている。そのぐらいの感想も言えないタレン
トがテレビ画面で「ウーンうまい」と料理をパクつくのは見苦しい。それに、料理番組が
増えているということは、見ている主婦も増えているということだろうが、おフクロさん
やトレイ奥様がどんどん増えているというのも時代の流れか。
それにしても、大騒ぎで「地デジ」時代に移行しながら、放送内容の向上に取り組む気
配はない。NHKも民放と変わるところがない。ヤレヤレ。
(2011.10.17)
山崎義雄