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鷲見雄一(2011.12.26)

姿消す「恥知る文化」

 わが国は本来、「恥」に関して極めてデリケートだったはずである。年輩の人であれば、
両親や教師あるいは大人たちから「恥を知れ ! 」と叱られた経験を一度や二度は持っている
に違いない。江戸時代まで溯らなくても、「恥辱を受けた」ということに立腹して自殺まで
図ったという例は決して少なくなかったように思う。
 しかし、最近の日本人を見ていると、どうやら「恥」意識に欠けている人が増えてきてい
るように思えてならない。テレビやラジオのトーク番組などで、小中学生の時に万引きをし
た経験があると告白する芸能人が現れると、「おれにもある」「わたしにもある」と、まる
で同志になりたがるように言いつのる男女が出てくる。これなど何をか言わんやである。
 前政権の無策を責めたて、国民に大きな期待を抱かせるマニュフェストを掲げて新政権の
座に就いたとたん、主張があまりにも実態に即さないのに驚いて、さっさとマニュフェスト
を反故にしてしまう政党などもかなりの「恥知らず」である。生徒にセクハラをして訴えら
れる教師、国民の血税を自分たちの生活のために費消してしまう国家公務員や地方公務員、
成績を上げるために自分たちが犯した冤罪を隠そうとする警察官や検察官たち、彼らは万引
きの経験をとくとくと話す者と同一の「恥知らず」でしかない。
 「恥」ではないが「恥ずかしい」という気持ちもずいぶんと少なくなってきているようだ。
最近のテレビコマーシャルに生理用品や痔の特効薬の宣伝があるが、どちらにも若い可愛い
女の子たちが登場し、生理用品の場合は、明るく「朝まで漏れません」と言い、痔の特効薬
の場合は「あなたは上から?わたしは下から」など使用方法を説明している。ひと昔前の女
性たちだったら、そんなことは、ごく親しい人にこっそりと伝えたことだったはず。別に隠
さないでもいいことではあるが、口にするには「恥ずかしい」という気持ちがあったような
気がするのである。
 1968年に福音館が発行した「ことわざ故事金言小事典」の中に、「恥を言わねば理がき
こえぬ」ということわざが載っている。「自分の恥を言わなければ理がたたない」という意
味だそうだが、そう言えば、最近の政治家や経営者の中には、自分の「恥」をひた隠しにす
る者が多い。これなどは「恥知らず」の上を行くものではないだろぅか?

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