敬愛すべき知友、池田憲彦氏(近現代史研究家、元拓殖大学教授)よりいただいた
ご挨拶です。ご本人の了解を得て紹介します。(山崎義雄)
前略 今年も残すところ、僅かとなりました。
11月18日から12月9日まで、平均零下20度のモンゴルにおりました。モンゴルに関わ
ってから、18年になります。初期の3年ほどはヴズベクなど中央アジア諸地域も視野に入れ
て、それなりの活動をしましたが、経費の問題もあり、その後はモンゴルに集中しました。そ
の間、様々な試行錯誤がありました。その上で、ひとつの区切りをつけるための渡航が今回
でした。
機会があれば詳しくは伝えますが、要約すれば、太平洋の平和は内陸アジアの安定と不可
分な関係にあるという見地。そして、モンゴルには独自の役割がある、という確信にたどり
着きました。
ハートランドを含む内陸アジアは、中央アジアやチベット、新彊ウイグル地区など、多く
の不安定要因を抱えております。モスクワは旧宗主国として中央アジア5カ国には、失地回
復を意図した影響力の復活を念願しております。ただし、浸透し台頭するイスラーム要因に
は、対処は不可能でしょう。
新興勢力としての中国は、経済力を背景にして、内陸アジア全域に着実に浸透しておりま
す。ウランバートルは3月以来でしたが、滞在した住所の周辺にはシナ人経営の小規模なホ
テル(旅人宿)が10数軒できており、驚きました。
モンゴルが流動する内陸アジアで独自の役割を果たせるのは何か、その思想的な背景は何
かを、モンゴル人が自覚するために、今回実現したのが、関係する大学(モンゴル国際経済
ビジネス大学)の教員による『ジンギスカン経営学論集』の作成でした。来年は、モンゴル
全大学の教員を対象にした懸賞論文事業を行います。3年度は、ネットを通して全世界の研
究者に応募を促します。
あれだけの大帝国を構築したジンギスカンには独自の経営センスがあったはずです。しか
し、悪しきオリエンタリズムの影響で、彼は稀代の殺戮・破壊者の印象が久しく広まってお
ります。その是正を学究的に図ったのです。その知的な新たな空間としての歴史認識がなぜ
必要なのか?北京やモスクワが帝国支配の原理として、少数派に同化を求める力学と異なり、
ジンギスカンは共生の力学を重視しました。その発想は、21世紀の内陸アジアにおいて、最
も求められる思潮になる、それをいかに政策化するか、に考えが至りました。
その問題提起を、政府系の英字週刊新聞 Mongolian Messenger.12月2日号に、Reviving
Genghis Khan's Business Administration/Toward the Strategy to Reconstruct
the
“Pax Mongolica”と題して発表してきました。さらに、具体策に触れた続編は、Geopolitics
for Building Peaces in the 21 st Century/ The Eurasian Heartland and the
Pacific
Ocean as a new geopolitical pivot. 9日号に掲載されたようですが、まだ入手していませ
ん。
これを初段階18年間の区切りとして、次世代へ松明は移譲する所存です。
来年も何かとお世話になると思います。何卒、ご協力願う次第です。 草々
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池田憲彦(2011.12.27)
年末のご挨拶・70歳を過ぎて